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大崎章(監督)×足立紳(脚本)×渋川清彦(主演) 特別鼎談

聞き手:川邊崇広(LOADSHOW編集部)

渋川清彦、大崎章、足立紳
左から渋川清彦、大崎章、足立紳

今作は、映画監督である渡辺タカシが主人公で、また主人公の親友が脚本家といった形で、どこか大崎監督と足立さんとの関係が想像出来る物語でもあるのかと思ったのですが、お二人の監督、脚本家としての出会いはどういったものだったのでしょうか?

大崎:『キャッチボール屋』を撮影したのが2005年なんですけど、2002年か2003年に今回のチー フ助監督である小野寺さんっていう人の紹介で出会いました。

足立:本当は紹介というか、まずその前に僕は小野寺さんから手伝いで何かの現場にお邪魔した時に大崎さんがキャスティングでいらっしゃったんです。

大崎:あー、あれはTV版の『濱マイク』で、緒方明監督の現場ですよ。足立はエキストラで来てたんだよね?

足立:それで、現場に行ったら怒鳴り散らしている人がいて(笑)。

大崎:当時、すごい恐かったというか、イケイケの助監督だったというか(笑)。それで、いまは監督で活躍されてる小沼雄一がセカンドの助監督だったんだよね。エキストラに靴をいっぱい持ってきたの。それが、みんなバラバラで足が入らないの。それで、「何やってんだよ」ってブチ切れて。

渋川:(笑)。

大崎:その時、考えていた企画が一本あって、その話を延々してたんだよね。

お互いその時の印象はどういう感じだったんですか?

足立:僕は、一度会った時の印象通りでしたね(笑)。現場でギャンギャンやってる通りな感じで。

大崎:当時は、何か躁状態っていうか、ずっと僕が喋っていて、それをニコニコ聞いているだけだったっていう印象がありますね(笑)。とにかく、一緒にやってほしいっていうのを強く思ったんで。で、結局その企画は実現しなかったんですよ。

その後に『キャッチボール屋』が生まれたんですね。

足立:多分、2003年くらいからありましたね。

大崎:あるプロデューサーからホン直しを15回くらいさせられて、その挙句うちでは出来ないって言われて、二人でがっかりして。

渋川:完全に『お盆の弟』の話ですね(笑)。

大崎:そうそう。それでその後、僕と足立とそのプロデューサーと飲みに行ったんですよね。今日は奢るって言われて行ったんですけど、奢られてもさ。辛かったですよ。で、次の日の朝、足立に電話したんですよ。どんな事があっても実現させるからって言ったんですよ。それが、ちょっと嬉しかったみたいです(笑)。だよね?

足立:(笑)。そうですね、覚えてます。そこからは、本当に早かったんです。

『キャッチボール屋』は、ずっとお二人で考えていった映画だったんですね。それこそお酒飲みながらあーだこーだ言い合ったりされていたんでしょうか?

足立:しょっちゅう阿佐ヶ谷の公園でキャッチボールしてお酒飲んでましたね。その後、釣り堀行ったりとか最悪の生活でしたよね?

大崎:釣り堀で昼間からお酒飲んでたよね(笑)。

足立:大崎さんは助監督で忙しくしてましたけど、僕は完全にダメ人間でした。

渋川さんが今作『お盆の弟』で演じる渡辺タカシの人柄は、演じられてみて共感出来る部分はありましたか?

渋川:やりやすかったですよ、大崎さんを知ってますから(笑)。大崎さんの話なんで。俺らの周りにもいっぱいいるじゃないですか。一般的にはダメ男じゃないですけど、そういう人は多いから。別に難しかったとかそういうのは全然無かったんですよね。それに舞台が群馬っていう事もあるし、本当に安心して出来たというか。やっぱり、朝起きて山があると全然違いますからね。地元の赤城山が見えると全然違いますから。

群馬県出身の方が多く今作携われているんですよね?大崎さんと渋川さんはもともと繋がりはあったんですか?

渋川:一回飲み会でお会いしてたんですよね?飲み会で会った人の事、なかなか自分は覚えられなくて、大崎さんに言われて思い出したんです。

キャスティングで渋川さんに決められたのは、どういった形だったんですか?

大崎:やっぱり群馬県ご出身っていう事は、第一にプロデューサーの意向があって。

足立:でも、群馬とか考えてない企画の段階から実は監督と二人で話している時に、藤村役だけ渋川さんっていうのはお互いに言ってたんですよ。で、主人公は誰がやるのか分からないっていう。藤村役を渋川さんがやってくれたら面白くなるなって話してたんです。

大崎:でも、タカシをやって頂いてとっても良かったですよ。すごい僕の分身みたいで、段々と芝居を見ている内に顔は違うんだけど似てるような気がしてくるんですよ。

足立:藤村役の岡田浩暉さんもなぜか大崎さん寄りになっていきましたよね(笑)。

大崎:そうなんだよ、知らず知らずの内に(笑)。急に怒ったり、突拍子もない声を出したりする感じが似てるんだよ。岡田さんは俺を真似したとは思えないんだけどね。

足立さんは書かれていて、脚本家の藤村にご自分の要素を盛り込んだりされなかったんですか?

足立:盛り込みましたよ。タカシにもかなり入れています。

大崎:タカシの離婚の危機っていうのは、盛り込まれてたりするよね?

足立:ウチは何度も離婚の危機を逃れてるんですけど、やっぱり、劇中で渡辺真起子さんが最後にがーって言うシーンなんかは、ちょっとフラッシュバックとか起きちゃって。あの時の、聞いている渋川さんの顔が大好きで。

大崎:あの顔はすごいですよね。男どもはあの顔見てみんなグサってくるだろうな。

あのシーンは素晴らしいですよね。

足立:最初、大崎さんからプロットもらった時はお兄さんと映画監督の話だったんですよ。

大崎:最初は「お盆の兄弟」っていうタイトルで、実際僕がお盆の時に親戚周りを兄と二人でしたんですよ。映画のプロットもそれで、そこから親戚の兄弟といざこざがあるっていう話だったんです。それから舞台を群馬に移して、売れない映画監督の日常の方に重きを置いたっていう事なんです。最後の墓参りだけ残ったっていう事ですよね。

足立:僕はプロットをもらって、大崎さんの事が書かれていたので、ある種の覚悟みたいなものが見えて、じゃあどうしようかなって思った時に俺は俺で嫁さん話をぶち込んで混ぜてみようかなって思って、それで形になったんです。

監督の覚悟を感じたとは、具体的にどのような事だったのでしょうか?

足立:自分の事とかを書くと、嫌がるプロデューサーの人もいるんですけど。それまで大崎さんから聞いていた企画っていうのは、ちょっと突飛なところがあったりして、あんまり大崎さん自身を反映させているようなものは無くて、それで今回の話をプロットで見た時は大崎さん自身が描いてあると思って、じゃあ自分もここに何かぶつけてみようみたいな気持ちになったのをよく覚えているんですよね。

劇中で兄役の光石研さんと家で食事をするシーンが、男二人で不在感があって、食事をしながら徐々にそれぞれの心境が見えてくる素晴らしい演出だなあと思ったんですけど、食事のシーンはかなり重要視されてたんでしょうか?

大崎:本当にうちの兄が大腸癌になって、その時に付き合っていた彼女が「行ってくれば」って言ってくれて、そのままずっと居ることになっちゃったんですけど、その時に退院して半年間くらい毎日のように俺が料理を作っていたんです。だから、あれ本当の話だったんです。

足立:本当、食事のシーンが作られているものがちゃんとしているっていうのもあると思うんですけど、こんなに良いシーンになるとは思いませんでしたね。

渋川:あの家がいいですよね。

結構長回しですけど、渋川さんは大変だったりしたんでしょうか?

渋川:いや、長回しの方が緊張感があって好きだし、そっちの方が面白いんです。NG出さなければ一発ですぐ終わるし(笑)。

場合によっては、すごいテイク数が嵩んじゃったりする事もあったんじゃないですか?

大崎:テイク数は嵩んでないんですよ。ほとんど二発くらいでOKだったんですよ。一発OKもいっぱいあったし。

渋川:言葉を自分に近い形でやってるから。光石さんもすごい安心できる人なので、任せることができるからやりやすかったです。岡田さんはすごい勢いでくるから、なかなか圧倒されました。

大崎:岡田さんなりの勝負を仕掛けてくるからね(笑)。

今回、藤村役の岡田浩暉さんや、妻役の渡辺真起子さん、そして藤村に紹介されて次第に親しくなる涼子役の河井青葉さんと、それぞれと接しているタカシが非常に自然体で親戚の日常を垣間見ているような雰囲気があるんですよね。

大崎:足立の脚本の特徴が、群像劇というか、主人公が受けにまわるんですよ。で、相手先が多種多様で、やり取りがそれぞれあるから多面性が出るんです。主人公はその度にちょっと芝居が変わるというか、(渋川さんに)受けじゃないですか?

渋川:そうですね、うん。

大崎:『キャッチボール屋』の時もそうだったんです。今回もやっぱりその特徴があって、それが足立の脚本の良い所なんだと思います。

足立さんは、そういった部分は意識されて描いてるものなんでしょうか?

足立:意識はしないですけど、僕の書く作品では、何も出来てない状態の人が主人公になってる事が多いんだろうなって。かなりダメだった人が、少しダメなくらいになっていく話なのかもしれないです(笑)。

モノクロでのカメラなどスタッフの方の力が素晴らしく反映された作品だと思います。今作のスタッフィングについて教えて下さい。

大崎:猪本雅三さんに『キャッチボール屋』の撮影をやって頂いたので、今回も是非やって頂きたいと思ったんです。あの方の技術とかセンスというのは、類まれだと思っていますので。猪本さんがロケハンした後にモノクロでいこうって言ったので、すごいびっくりしたんですよ。

足立:一歩間違えると生々しい話になりかねないので。

大崎:そうそう。カラーだったら生々しくなり過ぎてたかもしれないですね。

足立:モノクロになった事で、ちょっとフィクション性というかファンタジー性みたいな印象が増したように思うんですよね。

渋川さんは、モノクロ作品の出演はいくつもありますよね。カラーとモノクロの違いって何か感じますか?

渋川:いま言われた事が、確かにそうだなって思いました。生々しさが一歩奥に引っ込んで、映画っぽさが浮き出てくる感じはしました。

今作はモノクロ映画で、昔の日本映画のような面持ちがあるんですが、昔の日本映画でお気に入りの作品はありますか?

大崎:僕は『人情紙風船』(監督:山中貞雄/1937年)ですね。

渋川:俺もそうですね。

大崎:おお!

渋川:あと、『小原庄助さん』(監督:清水宏/1949年)が好きですね。

どこか飲みの席で『人情紙風船』についてお二人で話された事はあったんですか?

大崎:何か一回話しましたよね?

渋川:ええ。ああいう長屋を描いた感じのものをやりたいというような事を。権力に抵抗するようなね。

足立:僕は『夫婦善哉』(監督:豊田四郎/1955年)ですね。

渋川:やっぱダメな男の話なんですね(笑)。

大崎:ダメな男好きですね(笑)。

足立:でも、ああいう男の人はいくらでもいますけど、ああいう女の人はなかなかいないですよね?

大崎:尽くしちゃう感じ?

足立:尽くし方も嫌味がないというか。淡島千景演じるあの女性は、女の人が観ていても多分嫌じゃないんじゃないかなって思うんですけどね。

渋川:カラッとしてますもんね。

足立:そうなんです。

今作の渡辺真起子さん演じる奥さんも、突き放す感じはありますが強い女性ですよね。

大崎:あれイメージキャスティング通りなんで。最初から言ってたもんね、渡辺さんって。

渋川:現代の女性。

大崎:そうそう。

どこか見守っているというか、突き放しても決して見捨てている訳ではないですよね?

大崎:ええ、それを非常に醸し出してくれましたね。

最後に今作への思いを、これから観られるお客さんに向けてお願いします。

足立:大崎さんと僕の個人的な思いから始まってる作品ですので、作る事が最初は怖かったんですね。でも、そういう個人の思いから始まったものですが、作品自体は多くの人に伝わって、共感出来るものにきっとなっているんじゃないかなと思うんです。個人的な思いからスタート出来たことを、いまは本当に良かったと思います。出来るだけ多くの人に伝えたいですし、伝わってほしいですね。

大崎:僕と足立の生き方が反映されていますし、なおかつ玉村町っていう僕の生まれ故郷で撮っているし、キャストやスタッフ含めた関係者の協力ももちろんありがたくって、それに加えて玉村町の方々の温かさをすごく強く感じました。だから、みんなのためにも何とか育てていきたいなと思ってるんです。一言で言ったら感謝の気持ちでいっぱいです。

渋川:大崎さんと足立さんの思いが、俺みたいな役者っていうフィルターを通して、またコンビで映画をいっぱい撮ってもらえたら一番いいし、群馬県がこの映画で少しでも盛り上がってくれたらすごい嬉しいですよね。群馬の人って群馬がすごい好きだから。主演をやらせてもらえて、群馬で撮影出来てって、ほんと最高だったから、これは是非みんなに観てもらいたいな。